企業紹介と取り組みについて
澤山 本日は「ファンコミュニティ」をテーマに、コミューン株式会社(以下、コミューン)とLINEヤフー株式会社(以下、LINE)のご担当者にお集まりいただきました。私は、コミューンでマーケティングを担当している澤山と申します。まずはお二方の自己紹介と、企業としての取り組みや提供サービスを教えていただけますでしょうか。
杉山 はじめまして、コミューン株式会社の杉山と申します。私は現在、Commune日本事業の責任者およびCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を兼務しております。コミューンは「カスタマーレッドグロース(顧客起点経営)」を掲げ、企業とそのファンや顧客が“共創”することで事業を成長させていくためのコミュニティプラットフォームを提供しています。
弊社では、企業がファンコミュニティを立ち上げる段階から運営・分析・改善までワンストップでサポートしており、導入後の成果を最大化する伴走型の支援を強みとしております。BtoC企業だけでなく、BtoB領域でも、「顧客が集まるコミュニティ」という形が非常に有効であると実感しており、さまざまな業界・規模の企業様にご活用いただいています。

依馬 LINEヤフー株式会社の依馬と申します。弊社では企業様向けのマーケティングソリューションや広告事業を幅広く担当しており、その中でも特に「LINE公式アカウント」や「LINEミニアプリ」の企画・運用サポートに注力しています。LINE公式アカウントを軸に、企業とユーザーが“友だち”という形で直接つながるプラットフォームを提供してきましたが、そこにLINEミニアプリの機能を加えることで、さらに豊かな顧客体験が実現できるようになりました。
昨今は、コミュニケーションのみならず、購買・予約・チケット連携・会員証など、さまざまなサービスをLINEアプリ内で完結させる流れが加速しています。ファンコミュニティとの相乗効果を生む取り組みも増えてきておりますので、今日はそのあたりのお話をぜひ深掘りしたいと思います。
澤山 よろしくお願いします。まず、コミューン社が考える「ファンコミュニティ」の定義や、その本質的な価値についてお聞かせください。
杉山 私たちコミューンが考えるファンコミュニティとは、企業やブランド・サービスを愛する人たち、「エンゲージメントの高いユーザーが、一つの場所に集まって相互にコミュニケーションをとることで、ブランドの理解を深めたり、エンゲージメントが高まるアクションを行う」場のことを指しています。これは、オンラインだけでなくオフラインのイベントやコミュニティでも同様です。
ファン同士で情報交換することで、たとえば「自分はなぜこのブランドを好きなのか」「同じ商品を愛用する人はどんな背景で使っているのか」といった発見が得られる点が魅力です。さらに企業側にとっては、ファンの生の声や要望をより深く理解し、それを商品・サービスの改善につなげられます。ユーザーの満足度が高まると同時に、企業にとってはイノベーションの源泉ともなるのがファンコミュニティだと言えるでしょう。

コミュニティが課題に対する有効な解決策に

コミュニティが企業成長の源泉となる
澤山 ファンコミュニティを通じ、企業と顧客が築ける関係性について改めて教えてください。
杉山 私たちは「カスタマーレッドグロース」という言葉を使っているのですが、これは「顧客を中心に据えた経営をすることで、企業も成長していく」姿勢を意味しています。従来、企業と顧客の関係は、どうしても企業側から一方向に情報を発信し、それを受け取る顧客という図式になりがちでした。

顧客起点経営とは
杉山ファンコミュニティを立ち上げることで、ユーザー同士のコミュニケーションの中に企業が自然に融け込み、本音やアイデアを引き出せる環境が整います。そうして相互理解が深まれば、顧客側も企業が何を目指しているかを理解しやすくなり、企業側も顧客が何を求め何に感動しているのかを把握しやすくなる。いわゆる“共創”が起こることで、新しい価値が生まれていくわけです。
澤山 杉山さんがおっしゃったようなファンコミュニティを支援する際、特に重視しているポイントはどのようなことでしょうか?
杉山 大前提として、ファンコミュニティを立ち上げる目的を明確化することが重要です。私たちがしばしばお話しているのは「コミュニティ自体を作ることがゴールではなく、事業貢献を最優先に考えましょう」ということです。
いくらファンが盛り上がっていても、企業のKPIや事業指標と結びついていなければ、「何のためにコミュニティを運営しているのか」が社内外で共有されなくなり、いずれ担当者が変わった時にフェードアウトしてしまうリスクがあります。
最初にどのような事業KPI(売上拡大、ブランド認知向上、解約率低減、LTV最大化など)に貢献させたいのかをピン留めし、それに向かってファンコミュニティを活用していくという姿勢が大切ですね。
そのうえで、コミュニティの立ち上げや運営の実務に入るときには「コミュニティに関するイメージは、人によって大きく違う」という点も考慮します。たとえばある人はリアルイベントを中心としたコミュニティを想像するかもしれませんし、他の人は特定のSNS上での熱心な交流を思い浮かべるかもしれない。そこは、企業様ごとに最適化していくのがポイントですね。
澤山 一方、LINE側のサービス、たとえばLINE公式アカウントやLINEミニアプリを含めたソリューションが、ブランドや企業のファンコミュニティ形成にどのように役立つか、改めて伺えますでしょうか?
依馬 LINEの最大の特徴は「日本国内で非常に多くのユーザーが日常的に使っているコミュニケーションアプリ」であることです。メールマガジンの登録や、別途アプリをダウンロードしてもらうハードルと比べると、すでに多くの人のスマートフォンにインストールされているLINEのプラットフォームを使う方がはるかに手軽です。
また、ユーザーと企業が「友だち」という形でつながるので、双方向のコミュニケーションが当たり前に行いやすいのも魅力だと思います。SNSでのフォローとはまた違った親しみやすさがあるんですね。さらにLINE公式アカウントであれば、リッチメニューを使った情報の整理、セグメント配信によるユーザーごとの最適化も容易ですし、LINEミニアプリではさらに会員証機能やポイント連携、店舗予約、EC購入などの機能をLINE上で完結できます。
ファンコミュニティを運営する場合、企業が「ユーザーと直接対話しながら、欲しい情報を提供し、同時にデータを集めて分析する」という流れが重要です。LINEはそこをワンストップでサポートしやすいプラットフォームと言えるでしょう。

LINEヤフー株式会社 依馬 裕也氏
ファンコミュニティがもたらすメリットと成功の秘訣
澤山 ファンコミュニティが具体的に企業と顧客にもたらすメリットについて、もう少し詳しく聞かせてください。
杉山 企業側にとって、ファンコミュニティが生むメリットは大きく三つあると考えています。一つ目が「顧客理解」、二つ目が「顧客育成」、三つ目が「顧客創造」です。

※引用元:https://speakerdeck.com/hideki_ojima/20240531-d2ccom-opening?slide=16
(c)コミュニティマーケティング推進協会
杉山 まず「顧客理解」。ここでは「本当のファンは誰なのか」を明確化する重要性を強調します。単に購買金額が高いからといって、必ずしも熱量が高いファンとは限りません。極端な話、一番購買金額が高いユーザーは、俗に言う転売ヤーだったということも起こり得ます。購入頻度は少なくてもSNSをフォローし続けてくれたり、新商品が出ると積極的に話題にしてくれたりするユーザーのほうが、実はコアなファンであることも多い。そういう方々の声をどう吸い上げるか、コミュニティはそのきっかけとなるわけです。
次に「顧客育成」。顧客理解を深めたうえで、ファンの方々がさらにブランドを愛してくださるよう施策を打つこと、またまだファンとは言えない方によりブランドを好きになっていただくような取り組みです。たとえば定期的なファンミーティングや先行情報の共有、新商品開発への意見募集など、ユーザーにとって参加したくなる特別体験を用意する。そうすると、ファンの愛着やロイヤリティがさらに向上するわけですね。
そして「顧客創造」。これは既存のファンが口コミやSNS拡散、リアルイベントへの誘いなどを通じて、新しいファンや顧客を生み出していくプロセスです。ファンコミュニティ運営が軌道に乗ると、こうした“伝播”が自然と起こり、ブランド認知や購買意欲の拡大につながります。
澤山 顧客側にとっては、コミュニティに参加することでどういったメリットがあるのでしょうか?
杉山 コミュニティに参加することで得られる一番の価値は、「企業やブランドの背景をより深く知る」「ユーザー同士で知識や共感を共有できる」というところでしょう。好きなものを語り合える仲間が見つかったり、担当者とコミュニケーションができたりすることで、ユーザーは自分がそのブランドを好きな理由を再認識したり、最新の情報を最速で手に入れたりします。
また、ファンコミュニティ内で重ねた体験を通じ、「自分自身がブランドの“応援団”として貢献している」という満足感が得られることも大きいですね。これがさらに企業との絆を強め、リピート購入や周囲への紹介といったポジティブな循環を生み出していきます。
澤山 そうした“熱いファン”を継続的に増やすためにはどんな条件が必要と考えられますか?
杉山 やはり、「企業側がファンのことをどれだけ本気で理解しようとしているか」が大きいと思います。単純に割引クーポンや豪華景品を配るキャンペーンでは、すぐに集客できるかもしれませんが、長期的なロイヤリティ向上にはつながりにくい。
一方でコミュニティでは、ファンの背景や行動特性を丁寧に把握してこそ「この情報を届けたら喜んでもらえるのでは」「このイベントなら参加しやすいのでは」といった最適解が見えてきます。企業がファンの声を吸い上げ、施策に反映していく姿勢こそが、結果的にファンを長く支援し続けてもらえる大きな条件になります。

コミューン株式会社 杉山 信弘氏
LINEを活用したファンコミュニティの展開
澤山 ここからは、ファンコミュニティにおけるLINEの活用方法について詳しく伺います。まずLINEミニアプリが誕生した背景や、ファンコミュニティ形成の文脈でどのような役割が期待されるか教えていただけますか。
依馬 LINEミニアプリは、いわゆる“スーパーアプリ”の概念を意識しながら生まれた機能です。中国のWeChatなどでもミニプログラムが幅広く普及していますが、LINEでも同様に「ネイティブアプリを別途ダウンロードしなくても、すでに使っているLINEの中でさまざまなサービスを完結できる」という利便性を追求するために開発がスタートしました。
たとえば、飲食店の予約・決済、会員証の発行、チケットの取得や店舗スタッフとのやり取りなどが、すべてLINE上で行えるようになるので、ユーザーとしてはアプリ切り替えの手間が省けます。これが結果として企業側にとっても、顧客接点を一本化しやすいメリットをもたらしているわけです。
ファンコミュニティの観点で言うと、コミュニティで盛り上がっているユーザーがその流れのままスムーズに予約・購入に移れたり、オフラインイベントや店舗来店と連携しやすくなったりするので、ユーザー体験の断絶がなくなるんですね。ユーザーと企業の距離をより近づける“架け橋”的な存在がLINEミニアプリと言えるかと思います。
澤山 エンゲージメントを高めるために、LINEミニアプリが特に活躍する事例や機能があれば教えてください。
依馬 大きなポイントは「ID連携によるセグメント配信」と「LINE公式アカウントからのスムーズな誘導」の二つだと思います。
まずID連携については、LINEミニアプリに顧客がアクセスした際に、企業側はユーザーの識別情報(LINEのユーザーID)とひも付けることができます。すると店舗やECでの購買行動や来店履歴などのデータとも突合しやすくなり、ユーザー一人ひとりの興味や行動履歴に合わせた情報を提供しやすくなります。
次に公式アカウントとの連携ですが、リッチメニューにコミュニティへの導線を設置したり、セグメント配信したメッセージから直接LINEミニアプリに飛んでもらうことで、「今興味を持っているユーザーを確実にコミュニティへ招待する」という流れが作れます。これによって新規ユーザーでもコミュニティを知るハードルが下がり、より深いファン層への入り口が整備されるわけです。

LINEヤフー株式会社 依馬 裕也氏
澤山 コミューン社のコミュニティサービスと合わせて利用すると、どのような相乗効果が見込まれますか?
杉山 相乗効果としては、私は「アウトプット」と「インプット」の二つの面があると考えています。
まず「アウトプット」の面ですが、ファンコミュニティには愛の深いユーザーが集まっており、そこから得られる生の声は非常に濃密なんですね。その結果、コミュニティの中で生まれた良い事例やユーザー同士のストーリーを、LINEを通じて広く発信することで、まだ参加していない層の方々にも魅力を届けられます。
逆に「インプット」としては、LINE公式アカウントの友だち数が多い企業であれば、コミュニティの存在を知らないままの商品購入者やファン予備軍が多数いるはずです。リッチメニューやプッシュ通知でコミュニティを知ってもらい、濃い交流の場に誘導できるというのは非常に大きなメリットです。企業にとっても「せっかくLINEを活用しているのにファンとそうでない方に同じ体験しか提供できていない。」という機会損失を防ぎ、双方向コミュニケーションの醍醐味を最大限に生かすことができます。
依馬 まさに両社の連携で、LINEを“より広い入り口・接点”に、コミュニティを“より深い交流の場”にという設計ができますよね。ファン創出→ファン醸成→ファン増幅というサイクルを多角的に回せる点が、企業にとっての大きな価値ではないかと思います。
LINEミニアプリコミュニティと他LINEミニアプリとの連携
澤山 次に、LINEミニアプリ同士の連携についてお伺いします。コミュニティ用のLINEミニアプリと、他のLINEミニアプリ(予約、決済、ポイントなど)を連携させることで生まれる新たな顧客体験やデータ活用について、どのようにお考えでしょうか。
依馬 LINEでは、一つの公式アカウントに対して複数のLINEミニアプリを連携することが可能です。例えば、すでに“予約専用”のLINEミニアプリや“クーポン発行専用”のLINEミニアプリを導入している企業が、「ファンコミュニティ専用LINEミニアプリも追加する」というアプローチが考えられます。
ユーザー側からすると、同じ企業の公式アカウントの中で、予約→コミュニティ→決済→クーポン利用という一連のフローをストレスなく行えるわけです。これにより、O2O(Online to Offline)施策の幅が格段に広がり、デジタルとリアル店舗をシームレスに行き来できる新たな顧客体験が生まれると思います。
杉山 コミュニティ運営の視点でいうと、「購入履歴 × 投稿内容 × 来店回数」というような多次元のデータをクロス分析できるのが最大の強みですね。たとえばファンコミュニティに入っている人は実店舗の来店頻度が高いのか、それともオンライン購入が主なのか。それによってどんな情報を提供すればもっと満足度が高まるのか、といった施策を打ちやすくなります。
一方、課題としては「機能を増やしすぎてユーザーが混乱しないようにする」とか「管理画面が複雑になりすぎないように設計する」といった運用面をきちんと整える必要があります。ですが、そこさえ設計できれば、企業にとって大きなリターンが期待できるはずです。
澤山 LINEミニアプリ同士が連携するメリットと、課題・難しさをまとめると、どのようになりますか?
依馬 メリットは大きく分けて二点です。一つはユーザーにとって“とにかく便利”になること。予約や会員証、クーポン、コミュニティ参加などをアプリ一つで完結できるわけですから、企業との接触回数が自然と増えますし、そこで継続利用のインセンティブを与えればさらにロイヤリティ向上が期待できます。
もう一つは企業が得られる“データ活用”の広がりです。先ほど杉山さんがおっしゃった通り、さまざまな行動データを関連づけることで、よりパーソナライズされた提案や、ユーザーの行動変化を捉えた施策の打ち手が増えます(※ LINEアカウントと紐づいた行動データの取得・活用にはユーザーの許諾が必須となります)。
課題は、やはり“UI/UXの複雑化”と“運用設計の高度化”でしょう。一度にたくさんの機能を詰め込むとユーザーが何をどう使えばいいか混乱する恐れがありますから、導線設計や段階的な情報提示にこだわる必要があると考えています。
ファンコミュニティ運営の課題とデータ活用による解決
澤山 ファンコミュニティ運営時に、企業が直面しやすい課題にはどのようなものがありますか。
杉山 大きく三つ挙げたいと思います。
1)「自社にファンがいるか分からない」
2)「どうやってファンとコミュニケーションをとればいいのか分からない」
3)「コミュニティを継続・スケールさせる方法が分からない」
まず1)「自社にファンがいるか分からない」は、企業側がそもそも「本当にウチにファンがいるのか疑問に感じている」ケースです。実際にはファンがいないビジネスはほとんどなく、たとえ低関与商材でも、CMが好きだとか、その会社に知人がいるとかで“結果製品を愛してくれている人”は存在するはずなのですが、それが顕在化していないだけ。そこで我々はSNS登録者やLINE公式アカウントの友だち数など、すでにあるタッチポイントを最初に洗い出し、ファンが潜んでいそうな場所を探すことから始めるケースが多いです。ファンが従業員の場合もあります。
2)「どうやってファンとコミュニケーションをとればいいのか分からない」、たとえば公式XやInstagramをただ運用するだけでは、本音の対話が生まれにくいです。あるいは運営担当者が公の場に立つことに慣れていなくて、「どこまで踏み込んでいいのか不安」というお声もよく聞きます。ここは、コミュニティマネジメントのノウハウや、成功事例を共有することで解決が進む部分ですね。実際に運営しているコミュニティマネージャーさんを紹介することもあります。
3)「コミュニティを継続・スケールさせる方法が分からない」は、運営を始めた後に「なかなかユーザー数が増えない」「担当者の異動とともに事業の熱が冷めてしまう」などの課題です。これも事前に「事業KPIへの貢献」を固めておき、適切な成果指標を社内で共有しておくことで、コミュニティ運営が“個人の情熱”ではなく“組織の取り組み”として継続しやすくなります。

コミューン株式会社 杉山 信弘氏
澤山 その課題を解決しつつ、コミュニティを効率的に回していく仕組みや運用上の工夫はどのようなものがあるでしょうか?
杉山 具体的には次のようなステップがあります。
• ファンの可視化:LINE公式アカウントなど既存接点を通じてアンケートを行い「どれくらい企業を愛しているのか」「どの製品・サービスを主に利用しているのか」を集計する。
• インセンティブ設計:コミュニティの中でランクアップや勲章制度を導入するのも効果的です。高額景品を用意しなくても、ファンが欲しい情報や体験をピンポイントに提供すことで参加を促すことができます。「コミュニティがあります」ではなく、「すぐに使えるレシピがあります」のような具体的なメリットを提示します。
• 継続運営の仕組み化:担当者のみならず、複数名で運営を行うことや、例えば口コミはチーム全体で見直す習慣をつくるなど、意味のあるルーチンを組織で作ることを意識しています。定期的なオンライン・オフラインイベントを組み込むとかも有効ですl。社内の他部署ともコミュニティ成果を共有し、ファンの声が商品開発やマーケティング施策に生かされる流れを作るなど、徐々に広がる構造を作ります。
これらを実行すれば、コミュニティがショット的な取り組みではなく、明確な事業貢献を担う存在になるのではないかと思います。
澤山 ファンの行動データや発言データを分析する際、どのような手法やツールが効果的なのでしょう。
杉山 Communeでは、コミュニティ内の投稿・コメント・アンケートデータなどと、様々な外部データを統合して管理・分析できるDatahubという機能を提供しており、いわゆるゼロパーティーデータ(ユーザーが自ら提供するデータ)の蓄積と活用を支援しています。
例えば「プロフィール情報」で性別や年代、興味関心をタグ付けして、それを購買履歴や閲覧ログと組み合わせて分析ができます。すると「こういう属性のユーザーはイベント告知の反応が良い」「このような層は口コミを見てから動く。」といった因果関係が見えてきます。
そのデータを元にLINE公式アカウントとのAPI連携を行えば、コミュニティでセグメントしたユーザー層に対してパーソナライズしたメッセージを送りやすくなります。あるいはLINEミニアプリ上での購買データと突合することで、より高精度のアプローチが可能になるでしょう。
依馬 LINE側でも、公式アカウントの管理画面で配信開封率やクリック率、友だち登録の推移などを可視化する機能がありますが、コミュニティ内でのファン行動データとの連携はまさに相性が良いと思います。ユーザーが「ファンとしてどんな会話や活動をしているか」が分かれば、より最適なタイミングで最適な情報を届けられますから。データ活用を通じた顧客体験の向上は、今後ますます注目されるでしょう。
コミュニティがもたらす未来 / ファンコミュニティの未来像
澤山 今後、ファンコミュニティがどのように進化していくと考えているか、それぞれの企業視点でお聞かせください。
杉山 私たちは「ファンコミュニティがマーケティングの枠を超え、企業活動の中核を担う時代が来る」と見ています。すでに顧客起点経営を掲げる企業は増えており、今後は商品開発の段階からファンの声を取り入れる事例がさらに増えるでしょうし、CS(カスタマーサクセス)領域でもコミュニティが顧客同士のQ&Aやノウハウ共有の場となる可能性があります。
また、ESGやサステナビリティの文脈でも「企業の姿勢に共感して応援してくれるファン層」が重要視されています。コミュニティがあることで、そうした共感や思いを企業とユーザーが共に醸成し、社会課題の解決にも貢献していける。ファンコミュニティは、本当に多方面に価値を提供できる存在だと考えています。

課題に対するコミューンの解決アプローチ
澤山 ありがとうございます。LINEヤフー様側からの見解はいかがでしょうか?
依馬 LINEとしては今後も「日常生活のあらゆるシーンで便利に使えるプラットフォーム」であり続けたいと思っていますが、その延長上に“コミュニティ体験の進化”があると考えています。現在はLINEミニアプリを中心にさまざまなサービスが登場していますが、将来的にはメタバースやAR、VRなどの新技術と連動していくことも十分にあり得るでしょう。
例えば、オンラインのバーチャル空間でイベントを開催し、そこにファンがLINE経由でアクセスする。リアルな店舗にも行けば、LINEがO2Oの架け橋になってくれる。コミュニティは単にテキストベースで語り合うだけでなく、VRの世界や現実の店舗でも“ファン同士がつながれる拠点”になっていくと思います。新たな顧客体験を創造するうえで、コミュニティと新技術の融合は非常に楽しみな領域ですね。
澤山 最後に、ファンコミュニティの未来を見据えつつ、両社の今後の事業展開や連携について、より具体的にお話しいただけますでしょうか?
杉山 Communeとしては、これまで「独立型のコミュニティサイト」を企業向けに提供することが多かったのですが、今後は「多様なチャネルとコミュニティが融合する」形を本格的にサポートしていきます。つまりユーザーがどのチャンネルにいても、コミュニティの価値を享受できる状態ですね。
LINEとの連携もその一環として非常に重要で、たとえばLINEミニアプリ上で簡単にコミュニティ機能を利用できる環境を整備し、ユーザーが必要なときにすぐに参加・投稿できるようにする。そうすることで、企業は一層“顧客との距離”を縮められますし、顧客体験の質を高めることができます。
また、海外展開にも注力しており、現在アメリカ市場での導入事例が少しずつ増えています。日本とはまた異なる消費者行動やSNS文化があるので、そこで得た知見を還元しながら、よりグローバルに通用するファンコミュニティプラットフォームを目指していきたいですね。
依馬 LINEヤフーとしては、引き続き「LINE公式アカウント」と「LINEミニアプリ」の機能拡張や利便性向上を図りながら、エンタメ、リテール、飲食などさまざまな業種との連携を強化していきたいと考えています。特にエンタメ領域では“ファンの存在”が非常に大きな意味を持ちますから、コミュニティ形成が成功すればプロモーション効果も爆発的に高まる可能性があります。
また、コミューン社との連携についても、企業にとって「導入・運用負荷をなるべく抑えながら、ファンコミュニティのメリットを最大限に生かす」形をつくりたいですね。データ連携や自動化など、すでに開発中・検討中の機能が多くありますが、そうしたものが整備されれば、企業はより気軽にファンコミュニティを始められると思います。
将来的には、コミュニティ内の会話データとLINEの購買・行動データの融合が進み、企業のマーケティング戦略がさらにパーソナライズされるでしょう。ユーザーにとっても「自分にぴったりの情報だけが届く」「応援したいブランドともっと深くつながれる」環境が実現するはずです。

LINEヤフー株式会社 依馬 裕也氏とコミューン株式会社 杉山 信弘氏
澤山 本日は大変貴重なお話をありがとうございました。ファンコミュニティやマーケティング施策において、コミューン社とLINEヤフー社のサービスやソリューションをどう活用していくか、その一端が明確になったように思います。
これからファンコミュニティの立ち上げや拡充を考えている企業の皆さまにとっても、事業成長の大きなヒントになったのではないでしょうか。お忙しい中、ありがとうございました!
(取材日: 2025年2月6日: 取材/大場 沙里奈)